二代坂東三津五郎

今回の作者は東州斎写楽、間違いなしです!彼の描いた有名な役者絵のひとつで、「花菖蒲文禄曽我」という演目の石井源蔵役、二代坂東三津五郎を描写した版画の復刻です。

写楽とその謎については、たくさん書かれてきています。一体何者なのか、どこから来た人なのか、ほんの短期間にこれほどたくさんの面白い作品を残して突然消えてしまったのは何故か。こういった疑問を巡って、多方面にわたる活動や研究が盛んに行われてきています。数年前の事ですが、私の展示会場で、ある年輩の紳士に引き止められて話をしたことがあります。その方は、北斎が写楽という別名を用いて創作活動をしたという根拠を、御自身の研究論文として自費出版したとのことでした。(その鍵となるのは、足の親指の描き方が似ているという点らしく...)私は、こういった議論に加える意見は何ら持ち合わせていませんので、探究と分析は学者達に委ねることにして、作品の制作にできる限り専念することにします!

写楽の作品は、初めて復刻しました。実際のところ、摺物アルバムに加える最初の「古典」で、有名な絵師による有名な版画であるという観点からすれば「スタンダードなタイプ」ということになります。日本が西洋に向けて開国して以来、北斎の波、広重の東海道、歌麿の大首絵、それにもちろん写楽の役者絵、といった版画は、引く手あまたの売れ筋でした。日本情緒豊かで、世界中の誰が見ても、すぐにそれと分かる絵です。坂東三津五郎のことなど知らず、彼が何をしているところか、どうして目が寄っているのか、皆目見当もつかないでしょうが、「日本の物」である事だけははっきり分かったのです。  

伝統木版画の職人達に生活の糧を提供しながら、何世代にも渡って復刻され続けてきた有名な版画は、一体どれほどあったのか、きっと想像を絶する数でしょう。私が、こういった作品を摺物アルバムに加えることを躊躇してきた主な理由は、ここにあるのです。人々に「埋もれた」宝を示すことの方が、遥かに興味を引かれる事柄ですから。でも、こういった作品全てを無視してしまったら、風変わりな日本の版画集になってしまうでしょうから、時折は「スタンダード」なレパートリーからも選んだほうが良いと考えたのです。かつての職人の足跡を辿って、同じ絵を彫るという数限り無く続けられてきた作業を...(ほんの時折ですよ!)

何のかんの言っても、作り応えがありました。多くの職人にとっては手慣れた作業かもしれませんが、絵が有名であるからといって、作るのが簡単という訳ではありません。例えば、役者の顔と頭の部分には、薄ねずみ色と濃い黒の、ふたつの版木が使われていて、両方の見当をぴたりと合わせるのは、とても難しい作業です(特に口と目の部分)。なぜなら、まず最初に薄ねずみ色を摺り、それから、背景も含める他の全ての色を繰り返し、一番最後に濃い黒を摺るので(紙は伸びてしまっています)、全ての線がきっちり合うようにするのは、非常に難しいのです。

それから空摺りについての問題です。前回の版画を発送した後、どのような反響があるか待っていたのですが、その中に私の予想した通りの文面がありました。「空摺りの良さを知ってもらいたいんでしょう、分かってるわよ!」今月の作品を開いて見たら、彼女はどう思うでしょうか?今年は、これまでのどの作品にも浮き出し模様がありますから!これは、意図的にした訳ではなく、たまたまそうなってしまったのです。でも、絵その物の変化を考慮すれば、「同じような作品ばかり」といった不満を訴える人は居ないと思います!

相対的に考えて、この作品を選んだことには満足しています。制作過程で勉強になることがたくさんありましたし、作っている間に作業台の上にある作品を見た人達の反応からみて、今回も収集家の方達にも喜んでいただけるでしょう。そうなりますように!

平成15年8月

デービッド