琵琶の「青山」

第5集の最初を飾る作品には、古典的な色紙版を選びました。1820年頃に作られた魚屋北渓の作品です。この人の作品は、すでに2回、摺物アルバムに登場しています(これからもきっと登場することでしょう!)。古代中国には、五つの要素が世界を造ったという思想がありますが、これは、絵と歌の題材をそこから得て、「五行」と名付けられている一連の作品のひとつです。五行とは、火・土・金・水、そしてここで取り上げている木です。絵師と歌人達が選んだ木は、梅の枝と琵琶でした。描かれているのは、ただの琵琶ではなく、平家物語に出てくる「青山」、平経正が仁和寺で育てられている時に与えられたものです。この物語にある他の話と同様、これも結末は涙で、読み進めていくと、後に経正が最期を迎えるその瞬間に琵琶の弦がひとりでに切れて、以後二度と再び音を奏でることはなかった...この世にある者の手では、とあります。能で上演される「経正」では、仏前に供えらえている青山に惹かれて、幽霊となった経正が自身の法事に現れ、懐かしく奏ではじめる、これを最期に修羅道へ、...とあります。

この作品の題材が、たとえ「木」であっても、このように重厚な歴史のある琵琶を、摺物で簡単に表現できるものではありません。ですから、昔の摺師は、この楽器を装飾するために三つの金属を用いました。当時使われた物質をはっきりと同定することはできませんが、私は、弦と雲に銅粉、空には青金粉、月にはプラチナを使いました。プラチナと聞いても、ワクワクしないでください... この金属は高価ですが、使った量は重さにすればほんのちょっぴりですから!

この部分を飾る材料として、最初は銀箔を考えたので、時間が経つとどうなるかを調べる実験をしました。何枚かの紙に銀箔を貼り、工房の周りのいろいろな所に置いてみたのです。空気にさらされるところに何枚か、本の間に挟んで何枚か、と言った具合に。そして何年かが過ぎると、どれもがひどく酸化して悪い色に変化してしまったのです。これは、東京の空気のせいでしょうか、それともどこでも同じ事なのでしょうか。私には見当がつきませんが、銀をそのまま使うのは版画には向かない、ということは確信しました。そして、プラチナならば、かなり長い間銀色を保つだろうと、考えたのです。

金属粉は、今までの版画に何回も使ってきましたが、箔状のまま使うのは初めてでした。今回の場合は使うのが狭い面積なので、扱い方や付け方のこつを掴むのに、またとない機会だと考えたのです。始めるとますます面白くなって、今では、背景全体に箔を使う豪華な岳亭の摺物に挑戦するのが、待ち遠しくてなりません。

でも、それは来月ではありません。長い事作品を集めておられる方ならお分かりでしょうが、毎集2作目は美人画となっていて、きっとどなたもまだ御覧になったことのない、ちょっと面白い絵を選んであります。これ以上はお教えしません、御存知のように、これは私の方針ですから。毎回受け取る1枚毎にアルバムが活気づいていく、これこそが大切な楽しみ方です。少なくとも、私にとっては!

今年も、私の企画に参加してくださり、ありがとうございます!

平成15年4月

デービッド