隅田川

この絵の中に川がありますか?そうなんです、水などまるで見えないのに、この絵の題は有名な隅田川です。これは、何枚もの版画からなる「東都名物合」というシリーズ物のひとつで、(今までのところ、研究者によって13作発見されています)これは1812年頃、ある狂歌グループの依頼で抱亭五清が絵を描いています。江戸時代の一般的な摺物と違い、この絵には、謎が隠されているとか理解し難いなどといったところはまるでありません。隅田川の土手は花見の場所として有名ですから、お酒(ひょうたん徳利)と肴(この場合は白魚)は欠かせない要素で、これは今でも同じですね。

この作品を御紹介できたことは、ことのほか嬉しいのですが、それにはいくつか理由があります。そのひとつは、皆さんがこの作家の名前をお聞きになったことがないだろうということです。「摺物アルバム」では、埋もれた宝を発掘して皆さんに御紹介するというのが、かねてからの「約束」でしたから、そういう点からも、この作品は及第点を得ていることになります。ふたつ目の理由は、千葉市立美術館の協力を得た最初の作品だということです。この美術館には、素晴らしい江戸時代の摺物がたくさんに保存されていて、私は何年も前からその所蔵品の使用承諾を待ち望んでいたのです。去年の暮れになってついに、そこにある作品を間近に見る機会が得られ、また、一部を私のアルバムに加える許可も下りました。これから先も、ここの所蔵品からの作品を御紹介していけたらと思っております。このお知らせは、日本の収集家の方々には特に喜んでいただけることでしょう。なぜなら、日本の美しい版画が海外に流出して、外国の美術館や蒐集家のもとにあるということを、聞き飽きているとおもうからです。すべてが「なくなった」わけではないのです。

そしてまだもうひとつ、この版画を喜ぶ訳があります。これは、話していいものか.....。長いこと私の作品を集めて下さっておられる方は御存じと思いますが、「版画の見方」について私は口を酸っぱくして語ってきました。天井からの照明を消して見るのが最高の状態と。それなのに、皆さんがみんな聞いてくださった訳ではないんです!先日、ある収集家の方が私を訪ねて来て一緒に版画を見ていた時、「私の所に送ってくれているのと違うなあ!こっちの方がずっときれいだ!」というのです。私は、そんなはずはなく、まるで同じ物だと保証したのです。でも、何がいけなかったのかわかりました。この方は、私が説明したように、斜からさす明かりで見ていなかったのです。

壊れたレコードみたいな繰り返しで申し訳ないのですが、どうか今一度言わせてください。このような木版画は、ひとりの人によって描かれた「絵」とは違って、「何人もの人たちによって作られた3次元の物なのです。ですから、ほんとうに正しい状態で見るためには、正しい明かりで見なければならないのです。この作品の場合はとりわけ、浮き出し模様が、それは見事な美しさなので、それが完璧に見えるよう、再度このことを持ち出したわけです。(もうこれで、五月蝿い[ウルサイ]ことは言わないと約束します.... 少なくとも数カ月の間は!)

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「第3摺物アルバム」は目下製作中です。みなさんがこの作品を手になさる頃には、第2作目の彫りに専念していると思います。こちらも、長いこと復刻するのを楽しみにしていた作品です。いつものように、予告はなしですが...

毎年恒例の展示会で、次のアルバムの予定は聞かれても答えないことにしていますが、このお陰でいくつか予約を逃していることもわかっています。見ないことには予約などできない、とおっしゃる気持ちもわかるのす。私のたてた方針は間違っているのかもしれません。でも... 、そうでないかも....  前回のアルバムの最後の版画に、次回のアルバムの予約について書いていただく葉書を同封しました。そこには小さな備考欄があって、収集家の方からの参考意見をお聞きする良い機会になっています。その中で、何度も何度も書かれている事があるのです。「次に何が来るのか、いつも楽しみにしています!」と。

私を信用してくださって、ありがとうございます。みなさんを失望させないよう、これからも最善を尽くすつもりです!

平成13年4月

デービッド