吉原の遊女

毎年、10枚の版画を1セットとして作るようになって、もう11年以上になりますが、どのセットにも2枚目はいつも美人画を入れてきました。これはどうやら慣例になったようですが、収集家の方達も美人の絵はとてもお好きなようですから、このまま続けていくことにしましょう!今月の絵は、「青桜美人姿合鐘」(せいろうびじんすがたかがみ)という、二人の版元が1776年に共同で出版している有名な本からとったもので、絵師は著明な勝川春章と北尾重政です(私が用いたのは重政が描いた絵のページです)。この本は、いわば吉原の案内書のようなもので、見開きごとに各々の青桜(遊女屋)の様子とそこで評判の高い遊女を描写してあります。

「摺物アルバム」にこういった版画を入れるについては、ちょっと気になるところがあります。これはきれいな絵を摺った一枚の紙にすぎず、それ以上の何ものでもないと言えばそれまでですが、ここに私達が見ている物はいったい何なのだろうか考えずにはいられないのです。つきつめれば、売春宿と娼婦の宣伝なのですから(原画には青桜と遊女の名前がはっきりと書かれています)。この本に入れてもらうために遊女屋が版元にお金を払ったのかどうか、そんな事は私にはまるで分かりませんが、掲載されれば商売に悪くはなかったわけです!

今月はこんな宣伝用の作品をお送りして、気を悪くなさったでしょうか。これがもしも、今私の住んでいる地域で売春をしている女性の絵だったら多少のひんしゅくを買うことになるでしょうが、この絵は描かれたのが昔(今から2百年以上も)ですから受け入れられるでしょうか。ま、こんな質問はしないほうが良いのかも知れません。なぜなら、吉原に関係した絵を版画にしないことにしたら、私が使える浮世絵は残り少なくなってしまうからです!

先日、このことについて、家に訪ねてこられた収集家の方と話をしたところ、江戸時代の吉原というのは男の人達の社交場であって、吉原から連想するのは単に性的な物だけではないのだと説明してくれました。言い換えれば、吉原はそれほど悪い所ではなく、男の人が行くのになんら憚ることはなかったのだと。いずれにしても、ある時代における行いを他の時代の常識で判断するのは無理なことで、今私はそんな事をするつもりは毛頭ありません。ましてや200年も過ぎてしまっているのです。それに、この絵にある女性が悪い女だなどと決めつけるのは、確かに無意味なことです。彼女にはどうする事もできなかった事情があった事でしょうし、このような女性はたいていが、売られてこういった生活をするようになったようですから。

吉原を描いた浮世絵といえば.....この絵はとりたてて問題があるわけではありませんが、吉原の「内状」に及んだ他の絵にはかなり「危険」なものが多いのです。ある本に書かれている調査結果によると、江戸時代に作られた浮世絵は、冊子も含めて50%が春画だというのです。こういった絵の多くは生々しく見苦しいもので、見て気持ちの良いものではありませんが、中には目を見張る程美しくて感動に値するような絵もほんの数パーセントはあるのです。でも、もしも、この「摺物アルバム」にそういった類いの絵を加え始めたりしたら..... 収集家の方達の反応が想像できるような気がします。ですから、どうか御心配なく。毎月ビクビクしながら包みを開けるなんてことはしなくて大丈夫です。衣類を身につけている人の絵だけを選びますから!

平成12年4月

デービッド