版画玉手箱 #13


不動之滝

梅雨が終わり、夏の盛りに入るころです。涼を求めたくなりますね。そこで今回は、江戸時代の人々が暑気払いをしている様子です。手持ちの資料によると、当時は、一般の人達が海で泳ぐということはなかったようです。でもこのような滝は、夏の高温から逃れることのできる場所として好まれ、滝から落ちる水が流れる涼しい場所には、食べ物や飲み物を売る店もあったようです。

この絵は、「江戸土産」と題して次々と追加出版された作品群の中にあり、名目上の作者は広重となっています。敢えて名目上と書き加えたのは、例によって、彼の名前が記載されているものの、絵の技術的水準から判断すると、広重がどの程度関わったものか疑問だからです。

でも、こういった絵に求められたのは美術的な価値でなく、有名な場所からの旅土産を提供することだった、ということを考えれば、あまりうるさいことを言ってはいけないでしょう。このような版画は需要が高かったでしょうし、おそらくかなり手頃な価格で売られていたのでしょうから。

私は、このシリーズにある版画をたくさん持っています。自分の仕事に使えるような作品はほとんどないのですが、「及第点に達する」ものがほんのいくつかあります。この絵はそのひとつで、王子にある不動の滝を描写したものです。人物は棒切れのよう、そして木の葉の画き方などは初歩の域を出ないにもかかわらず、江戸時代の人々の生活の一場面をとても上手に捉えているので、どうしても「版画玉手箱」に加えたくなりました。

ところで、滝に打たれているのは、どのような人でしょうか。女性の背中をこすっている様子の男性は、下男でしょうか。でも、上流階級の人たちは、公衆の面前でこのようなことはしないでしょう。とすると、それほど人目を気にしない下町の夫婦でしょうか。それとも、私の推測は方向違いで、何か宗教的な意味合いのある行為をしているのかも知れません。

私の家の近くにも、こんな滝があるといいのに!

David

平成17年7月18日